「今度、2人で飲みに行きませんか」
LINEの下書きを何度書いては消し、書いては消し。送信ボタンの上で指が震えてる。
画面を見つめたまま、もう30分。
結局、送れなかった。
あの日の僕は、営業マン。仕事ではそれなりに成果を出せているのに、気になる女性を食事に誘うことすらできない自分がいた。
「断られたらどうしよう」 「変な人だと思われたら終わりだ」 「このまま何もしない方が安全なんじゃないか」
そんな声が頭の中でぐるぐる回って、結局何も行動できない。
でもね、今だから分かる。
あの時の僕は、恋愛の失敗を恐れていたんじゃない。自分自身と向き合うことから逃げていたんだ。
なぜ僕たちは「2人で飲みに誘う」ことに怖れを感じるのか
正直に言おう。
僕は20代の頃、女性を食事に誘って断られたことが3回ある。
1回目は大学4年生の時。サークルの後輩に「今度2人で飲みに行かない?」って声をかけたら、「えっと…予定確認してまた連絡します」と言われて、そのまま音信不通(笑)
2回目は社会人2年目。職場の同期に誘ったら「ごめん、他に好きな人がいて」とやんわり断られた。
3回目は26歳。マッチングアプリで知り合った人に「次は2人で会いませんか」と送ったら、既読スルー。
どれも思い出すと、今でも胸がズキっとする。
でもね、振り返ってみると、断られて本当に傷ついたのは最初だけだった。2回目、3回目は「あぁ、またか」って感じで、むしろ自分の誘い方が下手だったことに気づき始めていた。
哲学者のマルティン・ブーバーは「我と汝」という著書で、こんなことを言っている。
人間関係には「我−それ」と「我−汝」の2種類がある。
「我−それ」の関係とは、相手を手段として見る関係。自分の寂しさを埋めるため、承認欲求を満たすため、体の関係を持つため。相手を「それ」として利用しようとする。
対して「我−汝」の関係は、相手をかけがえのない存在として尊重し、真摯に向き合う関係。
僕が最初の3回で失敗した理由は、どこかで相手を「それ」として見ていたからかもしれない。「誘って成功すれば自分の自信になる」「彼女ができれば寂しくなくなる」…そういう自分本位な動機が、無意識に滲み出ていたんだろう。
男性が「2人で飲みに誘う」時に感じる恐怖の正体。
それは拒絶への恐怖だけじゃない。
自分のエゴが暴かれることへの恐怖なんだ。
誘う勇気が人を成長させる─実存主義からの視点
28歳の時、僕は転機を迎えた。
会社の別部署に、気になる女性がいた。何度か仕事で関わることがあって、彼女の仕事への姿勢や、後輩への優しい接し方に惹かれていった。
「誘いたい。でも断られたら…」
いつもの思考パターン。ぐるぐる同じところを回る。
でもある日、サルトルの言葉を思い出した。
人間は自由の刑に処されている。
実存主義の哲学では、人間は「何者にでもなれる自由」を持っている。でも同時に、その自由には責任が伴う。
行動しない自由もある。誘わない自由もある。
でも、何も選択しないことも、実は「選択しない」という選択をしているんだ。
その時の僕は、気づいた。
「このまま何もしなければ、俺は何も変わらない。30代になっても、40代になっても、同じ恐怖を抱えたままだ」
手のひらに汗をかきながら、スマホを握りしめた。
「〇〇さん、お疲れ様です。突然ですが、今度お時間あれば、2人でゆっくり話せる機会を作れないでしょうか。〇〇さんの仕事への考え方をもっと聞いてみたいと思っていまして」
震える指で文章を打ち、深呼吸を3回して、送信ボタンを押した。
ドクン、ドクン、ドクン。
心臓の音が耳に響く。
10分後、返信が来た。
「ありがとうございます!私でよければぜひ。来週あたりいかがですか?」
画面を二度見した。え、マジで?(心の中で叫んだ)
その瞬間、僕は何かを乗り越えた気がした。
断られるかもしれない恐怖を抱えながら、それでも誘った。その選択が、28年間の人生で初めて「自分の意志で人生を動かした」瞬間だったかもしれない。
女性が「YES」と言いたくなる誘い方の本質
誘い方のテクニックはネットにたくさん転がってる。
でも本当に大切なのは、テクニックじゃない。
誠実さだ。
エーリッヒ・フロムは「愛するということ」という名著で、こう述べている。
愛は技術である。学び、実践することで身につく。
恋愛も同じ。
「うまい誘い文句」を探すんじゃなくて、自分の本心を誠実に伝える技術を磨く。
僕が実際に成功した誘い方を、いくつか紹介する。
誘い方1:相手への関心を具体的に伝える
✕「今度飲みに行きませんか」 ○「〇〇さんが先日話してた△△の件、もっと詳しく聞きたいと思って。今度ゆっくり話す機会作れませんか」
相手が以前話していた内容を覚えていて、それに興味を持っている。これだけで、「ちゃんと自分の話を聞いてくれていた人なんだ」と伝わる。
誘い方2:選択肢を提示して、相手に主導権を渡す
✕「金曜日飲みに行きましょう」 ○「来週か再来週あたり、もしお時間あれば。金曜か土曜の夜、どちらかご都合いい日はありますか」
一方的に決めるんじゃなくて、相手の都合を尊重する。これがブーバーの言う「我−汝」の関係性の第一歩。
誘い方3:逃げ道を用意する
✕「絶対に来てください」 ○「もし予定が合わなければ無理しないでくださいね。また別の機会でも」
プレッシャーをかけない。断る選択肢も残す。これが誠実さ。
僕が彼女(今の妻)を最初に誘った時の文面は、こんな感じだった。
「〇〇さん、いつも仕事で助けられてます。実は、〇〇さんが新人研修で話してた『後輩との向き合い方』がすごく印象に残ってて。今、僕も後輩指導で悩んでることがあって…もしよければ、今度アドバイスいただけないでしょうか。ランチでも夜でも、〇〇さんの都合に合わせます」
計算してたわけじゃない。本当に彼女の考え方を尊敬してたし、話を聞きたかった。
その気持ちが、多分伝わったんだと思う。
当日の振る舞いで関係を深める─「聞く」という愛の実践
初めての2人での食事。
緊張で朝から何も喉を通らなかった(笑)
待ち合わせ場所に向かう電車の中、何度も鏡で髪型をチェックして。
「変じゃないよな…?」
そんな自問自答を繰り返しながら、駅に到着。
彼女は約束の5分前に来ていて、笑顔で手を振ってくれた。
その瞬間、不思議と緊張が和らいだ。
お店に着いて、料理を注文して。最初は天気の話とか、職場の話とか、当たり障りのない会話。
でも15分くらい経った頃、僕はふと思い出した。
今日は自分が話すためじゃなく、彼女の話を聞くために来たんだ。
フロムは「愛するということ」の中で、愛の要素として4つ挙げている。
- 配慮(care)
- 責任(responsibility)
- 尊敬(respect)
- 知識(knowledge)
この中で、最初に実践すべきは「知識」─相手を深く知ろうとすること。
僕は質問を始めた。
「〇〇さんって、どうしてその部署を選んだんですか?」 「仕事で一番やりがいを感じる瞬間ってどんな時ですか?」 「休日は何してるんですか?」
彼女は、最初は少し驚いたような顔をしていた。でも徐々に、表情が柔らかくなって、笑顔が増えていった。
話を聞きながら、僕は相槌を打ち、時々質問を挟み、彼女の言葉に真剣に耳を傾けた。
気づけば2時間が経っていて、彼女が「あ、もうこんな時間!」って驚いてた。
「今日、すごく楽しかったです。こんなにちゃんと話を聞いてくれる人、久しぶりで」
その言葉を聞いた時、胸が温かくなった。
テクニックじゃなくて、誠実に向き合うこと。それが何より大切なんだ。
当日の振る舞いで意識したこと:
1. スマホを見ない 当たり前だけど、これができてない男性は多い。相手と話してる時は、スマホは鞄にしまう。
2. 相手の話を遮らない 自分の経験談を語りたくなる衝動をぐっと抑えて、まず最後まで聞く。
3. 共感を示す 「それは大変でしたね」「すごいですね」 言葉だけじゃなく、表情や声のトーンで共感を伝える。
4. 否定しない 相手の意見が自分と違っても、「でも」「いや」を使わない。「なるほど、そういう見方もあるんですね」って受け止める。
5. 適度に自己開示する 自分の話ばかりはダメだけど、全く話さないのも距離が縮まらない。相手が話してくれたテーマに関連して、自分の経験も少し話す。
失敗から学んだこと─「拒絶」は否定ではない
でもね、正直に言うと、僕も全部が全部うまくいったわけじゃない。
29歳の時、別の女性に告白して振られたことがある。
3回デートして、手応えを感じていた(と思い込んでいた)。4回目のデートの帰り道、勇気を出して告白した。
「○○さんのこと、好きです。付き合ってください」
彼女は少し困った顔をして、こう言った。
「ごめんなさい。すごくいい人だと思うんだけど、恋愛感象としては見れなくて…」
ズシンと心臓に衝撃が走った。
帰りの電車の中、窓に映る自分の顔がやけに惨めに見えた。
でも家に帰って、一晩寝て。翌朝起きた時、不思議と落ち着いていた。
振られたことで、自分の価値が下がったわけじゃない。
彼女と僕の間に恋愛感情が生まれなかっただけ。それは誰が悪いわけでもない。
サルトルは言う。
人間は、何者でもないものとして存在し、その後で何者かになる。
振られた僕は「恋愛で失敗した男」になったわけじゃない。「勇気を出して告白できた男」になったんだ。
その経験があったから、その後、今の妻と出会った時に、もっと誠実に向き合えた。
失敗は、次の成功のための学び。
拒絶されることを恐れて何もしないより、拒絶されても前に進める自分になる方が、人として成長できる。
2回目のデートに繋げる心理─「余韻」という魔法
初回のデートが成功したら、次は2回目に繋げること。
でも焦ってはいけない。
僕が妻との2回目のデートに繋げた方法は、実はシンプルだった。
初回のデートの別れ際、彼女がこう言った。
「今日、本当に楽しかったです。また機会があれば」
ここで「じゃあ来週また!」って即座に言うのは早い。
僕はこう答えた。
「僕も楽しかったです。○○さんと話してると、時間があっという間ですね。またぜひ誘わせてください」
そして、帰宅後に送ったLINEがこれ。
「今日はありがとうございました。○○さんが話してくれた△△の話、すごく印象に残ってます。僕も□□について考え直すきっかけになりました。また話を聞かせてください」
ポイントは3つ。
1. 具体的な話題に触れる 「楽しかった」だけじゃなく、どの話が印象に残ったかを伝える。「ちゃんと聞いてくれてたんだ」と相手に感じてもらえる。
2. 相手の影響を伝える 「あなたと話して、私は変わった」というメッセージ。これが相手の承認欲求を満たす。
3. 「また」を匂わせるが、すぐに誘わない 余韻を残す。次に会いたいと思わせる「間」を作る。
そして、1週間後に再度連絡。
「○○さん、先日はありがとうございました。実は、あの後○○さんが話してた本を買って読んでみたんです。すごく面白くて。今度、感想を聞いてもらってもいいですか?」
彼女からの返信は「ぜひ!私も話したいことがあります」だった。
余韻を残して、相手の中に「次も会いたい」という気持ちを育てる。
これが2回目に繋げるコツ。
恋愛という「実存的な挑戦」の意味─人として成長するために
ここまで読んでくれてありがとう。
最後に、僕が恋愛を通じて学んだ最も大切なことを伝えたい。
恋愛は、相手を手に入れるためのゲームじゃない。
自分自身と向き合い、成長するための実存的な挑戦なんだ。
アリストテレスは「徳の倫理学」の中で、人間の幸福について語った。
幸福とは、徳に基づいた活動である。
徳とは、勇気、節制、誠実さ、思いやり。こうした美徳を実践することで、人は幸福になる。
恋愛において、僕たちが身につけるべき徳は何か?
- 勇気:拒絶を恐れず、誘う勇気
- 誠実さ:嘘やごまかしではなく、本心で向き合う誠実さ
- 思いやり:相手の気持ちを尊重し、配慮する思いやり
- 節制:焦らず、相手のペースを大切にする節制
- 謙虚さ:失敗から学び、成長し続ける謙虚さ
これらの徳を実践する場として、恋愛は最高の舞台なんだ。
僕は30歳で結婚した。
今、妻と過ごす日々の中で、まだまだ未熟な自分に気づく。
喧嘩することもあるし、自分のエゴが出てしまうこともある。
でも、そのたびに「我−汝」の関係を思い出す。
妻は、僕の欲求を満たすための「それ」じゃない。
かけがえのない「汝」として、尊重し、愛し続けること。
それが恋愛であり、結婚であり、人間関係の本質だと思う。
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